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エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン Élisabeth-Louise Vigée Le Brun
これまでは、マリー・アントワネットのお抱え画家として、アントワネットの肖像画として紹介してきましたが、今回はエリザベト・ヴィジェ=ルブランの作品を紹介していきたいと思います。

 

Genius of Alexander I. Prince Heinrich Lubomirski
Prince Heinrich Lubomirski as the Genius of Fame

右:アレクサンダー大王に扮するハインリヒ・ルボミルスキ 1818
左:音楽の守護神に扮するハインリヒ・ルボミルスキ 1789

Flora ou Hebe

Flora ou Hebe
フローラまたはへーベー

Portrait of Anna Pitt as Hebe


Anna Pitt as Hebe 1792年
へーベーに扮するアンナ・ピット

French Princess Eudocia Invanovna Galitzine as Flora, 1799

French Princess Eudocia Invanovna Galitzine as Flora,
フローラに扮するエウドキア・イヴァノヴナ・ガリツィン 1799 

Marie-Antoinette, dauphine, en Hébé 1773女神へーベーに関してはこちら

過去記事
王太子妃マリー・アントワネット


寄り道ですが、彼女の寓意画はジャン=マルク・ナティエ(Jean-Marc Nattier)を思いだすんですね。「フローラまたはへーベー」はナティエも描いているテーマです。
Jean-Marc Nattier - Portrait of a Ladyジャン=マルク・ナティエ(Jean-Marc Nattier)の「婦人の肖像画」の花の鎖は、ボッティチェリの春も思い出しますね。ルブラン夫人の「フローラまたはへーベー」は、ドゥルーエのデュ・バリー夫人の肖像画も思い起こさせます。モデルは誰?
wiki によるとエリザベト・ヴィジェ=ルブランは、クロード・ジョセフ・ヴェルネ (Claude-Joseph Vernet)から、フランス、イタリアの絵画を学ぶように助言され、ガブリエル・フランシス・ドワイエン、ジャン=バティスト・グルーズなどからも習得したようです。

私が知っているのは、フランソワ=エリー・ヴィンセント(ヴァンサン)からは細密画を、モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール(Maurice Quentin de La Tour)からはパステル画の研究をしたことです。

画家で画商であるジャン=バティスト=ピエール・ルブランと結婚しましたが、夫や娘とは不和であまり恵まれた家庭生活ではなかったようですが、ルブラン夫人となってからは王妃マリー・アントワネットのお抱え画家となったことは、のちの亡命先でフランス宮廷を描いた画家ということで、ずいぶん歓迎されたようです。

Peace Bringing Abundance -1780

Peace Bringing Abundance 1780年

Portrait of Princess Maria Josefa Hermenegilde von Esterhazy as Ariadne on Naxos, 1793  Portrait of Princess Karoline of Liechtenstein née Countess of Manderscheidt, as Iris1793

Maria Josefa Hermenegilde
von Esterhazy as Ariadne on Naxos, 1793 

Princess Karoline of Liechtenstein née Countess
of Manderscheidt, as Iris1793


右はフランツ・ヨーゼフ1世 (リヒテンシュタイン公)の王女マリア・ヨーゼファ。エステルハージ家ニコラウス公の公妃となりました。

ナクソス島のアリアドネ(Ariadne auf Naxos )に扮したマリア・ヨーゼファー。最愛のテーセウスをクレーテーの迷宮から脱出する手助けをしたことで知られる女神をマリア・ヨーゼファーへのオマージュとして描かれています。

左がリヒテンシュタインのアロイス1世の妻カロリーネ。彼女の足が素足であることが問題となり、作品の下に靴を用意したと言われています。(笑)

虹の女神イーリスに扮したカロリーネです。

アロイス1世は、フランツ・ヨーゼフ1世 (リヒテンシュタイン公)の息子なので、2枚の作品の女性は義理の姉妹となります。

(C)www.costumes.org
この作品解説がなかったのでわかりませんが、たぶんフランス革命のときに亡命先での制作だと思います。

ナポリ、サンクトペテルブルグ、リヒテンシュタインなどを転々としたようです。

ロシア、ドイツ、イギリスなどでも裕福な貴族や王室、宮廷の女官などの肖像画の注文を受けていました。

ここまでご紹介している貴婦人たちの肖像画は寓意画ばかりです。亡命先ではナティエやドゥルーエ(ドルーエ)のように、神話の女神に扮した擬人化を好んで描いています。

エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランは、ナポリではハミルトン婦人の肖像画を多く残しています。

Elisabeth Vigée-Lebrun - Lady Hamilton as Ariadne

アリアドネに扮するハミルトン夫人


エマ・ハミルトン夫人(Emma, Lady Hamilton)は、レイノルズや、ホップナーやローレンス、そしてジョージ・ロムニーのモデルを務めていました。ジョージ・ロムニーは「キルケに扮するハミルトン夫人」を描いています。

この作品ではさきのエステルハージ公妃とおなじくアリアドネとして描かれています。

Lady Hamilton

Lady Hamilton as a Bacchante 1791
Lady Hamilton as the Persian Sibyl 1792


左が火山ヴェスヴィオ(ベスビオ)を背景にした酒神バッカス(ディオニューソス)の巫女として描いています。ワインと泥酔の神に理性を失った女性を重ねてしまいますよね。

右がペルシャの預言者シビルに扮するハミルトン夫人を描いています。

エマは、ハミルトン卿の甥の恋人でしたが、飽きられてハミルトン卿に贈られます。素性の知れない女性でしたので、上流階級からも宮廷からも疎外されますが、このナポリでは、マリー・アントワネットの姉、マリア・カロリーナが王妃でした。

Maria Karolina, Königin von Neapel und Sizilienこちらがエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランが描いた「王妃マリア・カロリーナ」です。

ハプスブルグ家 マリア・カロリーナ
ハプスブルグ家 マリア・アントーニア
マリー・アントワネットが愛したもの
のちにハミルトン夫人はこのナポリの地で、マリー・アントワネットの「皇女引渡しの儀」で偶然に不吉な装飾に目をとめた詩人ゲーテと出会います。のちにゲーテはイタリア紀行を刊行しますが、同行したティッシュバインは、ハミルトン夫人の肖像画を2枚描き、1枚はゲーテが所有していたといいます。

ハミルトン夫人はネルソン提督とのロマンスもあり、映画ではヴィヴィアン・リーが扮しました。

Elisabeth Vigee-Lebrun

左:Maria Carolina Bonaparte with her daughter 1809
中央:Madame Rousseau and her Daughter  1789
右:Marie-Antoinette and her Four Children 1787

中央が「マダム・ルソーとその娘」です。右は「マリー・アントワネットと4人の子供たち」です。空のベッドに亡くなった子供を描いています。

そして左は「ナポリの女王マリア・カロリーナ・ボナパルトと娘レティシア・ミュラ(Maria Carolina Bonaparte, Queen of Naples with her daughter Laetitia Murat)」です。アントワネットのナポリ王妃マリア・カロリーナの夫はナポレオンに退位させられます。この肖像画は、女王のように振舞うのがナポレオンの3番目の妹。実際にはジョアシャン・ミュラ元帥の妻です。

Elisabeth Louise Vigée-Lebrun, Madame Vigée-Lebrun et sa fille


 Madame Vigée-Lebrun et sa fille
左が「ルブラン婦人と娘ジーン・ルーシー」 1786年
右が「ルブラン婦人と娘ジーン・ルーシー」 1789年

この右側の画家自身とその娘「ル・ブラン婦人と娘ジーン・ルーシー」(1789年)はラファエロの聖母子に倣っているということです。
Madonna della Seggiola  1514 こちらがお手本になったラファエロ・サンティ(Raffaello Santi)の「椅子の聖母」です。ヨハン・ゾファニー (Johann Zoffany)の「ウフィツィ美術館の特別展示室」にも描かれてますね!
エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランが描いた聖母(母と娘)のうちで、専門家は1789年のルブラン夫人と娘を指摘していますが、私自身がエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの作品で、ラファエロの聖母子に似ているって思ったのが、こちらです。

Marie Louise Elisabeth Vigée Le Brun

Marie Louise Elisabeth Vigée Le Brun
title ?????


ベールを被り、服装と包みのための布でしょうか。色彩が似ています。

残念なことにタイトルがわかりません。ルブラン夫人のようにも見えますが・・・。違うようにも見えますよね。

さて、エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランは自分の肖像画も多く画いていますが、とくにピーテル・パウル・ルーベンスの「麦わら帽子(シュザンヌ・フールマンの肖像)」を倣うように描いた作品があります。

The Straw Hat


Peter Paul Rubens   The Straw Hat 1625年
Self-Portrait in a Straw Hat 1782年

ルーベンスのシュザンヌ・フールマンの肖像画ではフェルト帽子を被っていますが、18世紀になって「麦藁帽子」とよばれたそうです。

ルーベンスの背景の光彩と陰影は、ルブラン夫人にも自然に取り入れられ、空にかかるうっすらとした雲で表現されているということです。

当時のルーベンスが描く洗練された衣装は、ルブラン夫人によって受け継がれているように思いませんか? 宮廷や貴族のファッションやヘアスタイルなど流行を巧く取り入れていますよね。

この自画像では、そのひとつの「chapeau de paille (麦わら帽子)」を被っていますね。羽飾りはダチョウだそうです。互いの肖像画には肩掛けを印象的に付けて、ルーベンスは胸元を、ルブラン夫人はコルセットでしめた細いウェストをいつでも隠せるよう身につけている様子に見えます。

肖像画からの風俗

さて寓意画、自画像と続いてきましたが、風俗画としてルブラン夫人の作品を紹介します。ルブラン夫人と娘の肖像画もそのひとつでしたが。

The Marquise de Pezé and the Marquise de Rouget with Her Two Children, 1787

The Marquise de Pezé and the Marquise de Rouget
with Her Two Children, 1787


「ペゼ侯爵夫人とルジェ侯爵夫人の二人の娘」です。ボンネットが印象的に描かれています。天蓋のようなボンネット。後ろからかぶり首でリボンをしめるかたちを指しますが、どうやらうしろでとめているかたちですね。

そしてルジェ侯爵夫人と思われるもう一人はヘアに編みこまれた長い幅広のリボン。
Madame de Pompadour 一昔前のポンパドゥール夫人がかぶるっているのが基本的なボンネット。ルブラン夫人が描く時代は、ボンネットも華やかに変わっています。作品は、François-Hubert Drouais(ドゥルーエ)のポンパドゥール婦人の肖像画。
過去記事 マダム・ド・ポンパドゥール
こちらの作品もご覧ください。

左はルイーズ・マリー・アデライード・ド・ブルボン=パンティエーヴルの肖像画。ランバル公妃の義理の妹。パンティエーブル公の娘です。右がルイ16世の妹「マダム・エリザベート」です。

二人ともにボンネットを被っています。

Elisabeth Vigée-LeBrun


Louise Marie Adélaïde  ?年
Élisabeth Philippine Marie Hélène de France dite "Madame Elisabeth", soeur du roi Louis XVI  ?年

2001年公開でしたっけ?邦題 「グレースと公爵」です。実在したグレース・エリオットは、王党派でデュ・バリー夫人と同じ牢獄に入ることになるのですが、革命後は解放されます。そのグレースがヒロインだった映画では、エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの肖像画に描かれるようなボンネットや麦わら帽子、絹のトリコットに農婦風のモスリンドレスを着ていました。

LANGLAISE ET LE DUC

(C)L'Anglaise et le Duc



エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランと同じ時代の女流画家には、アデライード・ラビーユ=ギアール(Adélaïde Labille-Guiard 1749-1803)がいます。アデライードには、マリー=ガブリエル・カペー(Marie-Gabrielle Capet 1761-1818)、キャロー・デュ・ローズモンド(Carreaux de Rosemond )がいました。

Self-portrait with two pupils by  Adelaide Labille-Guiard 1785

Self-portrait with two pupils
by  Adelaide Labille-Guiard  1785


アデライードは、キャンパスに向かい二人の弟子が後ろで見ている作品を仕上げました。

Atelier of an Artist. oil on canvas by Marie-Victoire Lemoine 1796

Atelier of an Artist
by Marie-Victoire Lemoine 1796


10年後。こちらはエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの弟子のマリー=ヴィクトリア・ルモワンヌ(Marie-Victoire Lemoine)の作品で、「画家のアトリエ」です。アデライードとは反対に、中央にエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン(Vigée-Lebrun 1755-1842)がいて、左に弟子本人が描いている作品に仕上げています。

Élisabeth Vigée-Lebrun: Self-Portrait, 1800

Élisabeth Vigée-Lebrun: Self-Portrait, 1800


さらに4年後。ルイーズ・ヴィジェ=ルブランは自画像として、弟子の作品「画家のアトリエ」から、弟子が書き写しをしているキャンパスの課題を描いているルブラン自身を描いているのです。

おもしろいですね。



Portrait of Theresa, Countess Kinsky, 1793

Portrait of Theresa, Countess Kinsky, 1793


最後はこちらの姫君です。

ウィーンに亡命したエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランは、1793年にテレサの肖像画を描きました。

マリア・テレジア・フォン・キンスキーとアンジェイ・ポニャトフスキ公爵の子女にマリア・テレサという女性がいます。このマリア・テレサなのかはわかりません。

肖像画「テレサ・キンスキー伯爵夫人」の伯爵夫人は政略結婚で、教会の結婚式直後に、夫となった人が愛人のもとに去ったという不運な女性。

こんなに美しいのに!

エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランは、ヨーロッパを亡命しながら、多くの「女の一生」を描いてきた貴重な画家だと痛感いたしました。
| ヴェルサイユの画家 | 09:38 | - | - | pookmark |
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